東京地方裁判所 昭和37年(行)92号 判決 1966年3月31日
原告 岡部勇二
被告 国 外一名
訴訟代理人 横山茂晴 外一名
主文
1.原告の各確認の訴を却下する。
2.原告その余の請求を棄却する。
3.訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一、請求の趣旨
原告は、主たる請求として、
1.原告と被告両名の間において、原告の退職年金額が一般職の職員の給与に関する法律第六条に定める俸給表の給与額の改定に伴い改定されたことを確認する。
2.原告と被告国家公務員共済組合連合会の間におて、原告の退職年金額が一般職の職員の給与に関する法律第六条に定める俸給表の給与額の改定に伴い、
昭和三五年五月からは、金一五〇、九八四円
同年一〇月からは、金一八一、五八二円
昭和三六年一〇月からは、金一九四、三六九円
であることを確認する。
3.被告国家公務員共済組合連合会は、原告に対し金六七、〇七三円を支払え。
4.訴訟賢用は、被告らの負担とする。
主たる請求の趣旨2、3項に対する予備的請求として、
5.原告と被告国家公務員共済組合連合会との間において、原告の退職年金額が一般職の職員の給与に関する法律第六条に定める俸給表の給与額の改定に伴い、
昭和三五年五月からは、金一四五、六五六円
同年一〇月からは、金一七五、六四二円
昭和三六年一〇月からは、金一八七、九五円
であることを確認する。
6.被告国家公務員共済組合連合会は、原告に対し金五七、七七一円を支払え。
との判決及び仮執行の宣言を求めた。
第二、請求の趣旨に対する答弁
被告ら代理人は、本案前の答弁として、
1.原告の被告国に対する訴を却下する。
2.訴訟費用は、原告の負担とする。
本案について、
3.原告の請求を棄却する。
4.訴訟費用は、原告の負担とする。
との判決を求めた。
第三、当事者間に争いめない事実
一、1.原告は、昭和五年八月二二日から昭和三五年四月七日まで国家公務員共済組合法(昭和三三年法律第一二八号・以下「新法」という。)に定める職員(組合員)の地位にあつたものである。
2.その間、昭和一二年五月二六日から昭和三三年四月一日郵政事務官を退職するまで恩給法第一九条に規定する公務員であつた。
3.同日以降昭和三五年四月七日までの間、司法修習生であつて、右採用と同時に、旧国家公務員共済組合法(昭和二三年法律第六九号・以下「旧法」という。)により旧長期組合員(国家公務員共済組合法の長期給付に関する施行法《昭和三三年法律第一二九号・以下「施行法」とい5。》第二条第一項第五号所定のもの)となり、その後新法施行に伴い、昭和三四年一月一日以降施行法所定の更新組合員となつた。
二、1.原告は、昭和三三年四月一日郵政事務官退職に伴い、恩給法に定める普通恩給・年額金一二四、八四八円を受ける権利を取得し、その裁定を得た。
2.しかし、原告は、施行法第五条所定の期間内に、裁定庁たる総理府恩給局長に対し普通恩給を受けることを希望しない旨を申し出た。
三、1.原告の郵政事務官退職当時の俸給額は、一般職の職員の給与に関する法律(以下「給与法」という。)別表第一行政職俸給表(1) の四等級八号俸(以下「四の八号俸」という。)であつて、当時俸給月額二八、九〇〇円であつた。
2.その後、同俸給表の改定により右号俸の俸給月額は、昭和三五年四月一日から、金三〇、六〇〇円、同年一〇月一日から金三六、二〇〇円、昭和三六年一〇月一日から金三九、二〇〇円となつている。
3.司法修習生の給与月額は、昭和三四年、一月一日以降一二、八五〇円、同年四月一日以降一三、四〇〇円、同年一〇月一日以降一四、〇五〇円、昭和三五年四月一日以降一四、八〇〇円である。
4.原告の司法修習終了以後、ベースアツプにより司法修習生の給与月額は、昭和三五年一〇月一日以降一六、五〇〇円、昭和三六年一〇月一日以降一七、九〇〇円となつた。
四、1.原告は、昭和三五年一二月一〇日被告国家公務員共済組合連合会(以下「被告連合会」という。)から次のとおり退職年金を支給する旨の決定を受け、年金証書(退年か第一五五号)を受領した。
(一) 基本年金額 一二四、八四八円 支給開始昭和三五年五月
(二) 停止期間中の支給額(差引支給年額)
昭和三五年五月から昭和三九年一二月まで、六二、四二四円(基本年金額の一〇〇分の五〇・支給停止)
昭和四〇年一月から昭和四四年一二月まで、八七、三九四円(基本年金額の一〇〇分の三〇・支給停止)
2.原告は、右決定に基き、被告連合会から、昭和三五年五月から昭和三七年八月までの退職年金(同年九月以前に支給を受けるべき分)として、若年停止により差引年六二、四二四円の割合による金員を受領している。
第四、被告連合会のなした原告の退職年金(基本年金)の額の計算の根拠は次のとおりである。
原告は、昭和三五年四月七日司法修習生の修習を終えたことにより、新法第三七条、第三八条、施行法第七条、第一一条によつて退職年金の支給を受けることになつたのであるが、その退職年金額(基本年金額)は、次のように計算される。
(一) 年金額計算の基礎在職期間
基礎在職期間は更新組合員の場合、新法施行後の期間(新法第三八号第一項)に、施行前の期間を算入して計算する(施行法第七条第一項)ことになるが、その期間は次のとおりである。
(1) 新法施行後の期間
昭和三四年一月から同三五年四月まで 一年四月
(2) 新法施行前の期間(施行法第七条第一項各号に応じ区分)
(イ) 第一号の期間
昭和一二年五月から同三三年四月まで 二一年
(原告の場合、加算又は除算され若しくな半減されることとされる期間はない。)
(ロ) 第三号の期間
昭和三三年四月から同年一月まで 九月
(ハ) 第五号の期間
昭和五年八月から同一二年四月まで 六年九月
(二) 年金額計算の基礎俸給年額
原告の年金額計算の基礎俸給年額は、Hに述べた各期間に応じ、(一)の(1) の期間については「新法の俸給年額」、(一)の(2) の(イ)の期間については「恩給法の俸給年額」、(一)の(2) の(ロ)・(ハ)の期間については「旧法の俸給年額」となる(施行法第一一条第一項)。
(1) 新法の俸給年額(施行法第二条第一項第一九号・同条第二項・新法第四二条第二項)
新法第四二条第二項の規定により「掛金の標準となつた俸給」(新法第一〇〇条第二項・国家公務員共済組合法施行規則第一一五条参照)を規準に、その三年間の平均俸給(組合員期間が三年に充たないときは、その期間の平均俸給)が新法の俸給年額となるが、その計算は次のとおりである。
表<省略>
(2) 恩給法の俸給年額(施行法第二条第一項第一七号)
「恩給法の俸給年額」とは、新法上の退職をした場合に、これを恩給法上の退職とみなして恩給法に規定ずる退職当時の俸給年額の算定の例(恩給法第五九条の二・第六〇条)により算定した俸給年額であるが、原告の場合司法修習生を終了した昭和三五年四月七日における給与月額一四、八〇〇円の一二倍である一七七、・六〇〇円がこれに相当する。
(3) 旧法の俸給年額(施行法第二条第一項第一八号)
「旧法の俸給年額」とは、新法上の退職をした場合に、
これを旧法上の退職とみなして、旧法第一九条の規定の例により算定した俸給の年額であり、原告の場合、原告の修習が終了し給付事由が発生した当時の給与月額一四、八〇〇円の一二倍である一七七、六〇〇円がこれに相当する。
(三) 年金額の算定
年金額は、施行法第一一条の規定により次のとおり算出される。なお、同条の計算に当り、(一)の(2) の(ロ)及び(ハ)の期間の一年未満の端数は、新法期間(一)の(1) に加算される(施行法第一一条第三項)。
(1) (一)の(1) の期間について(施行法第一一条第一項第四号)
2年×(1.5/100)×163,537円56銭 = 4,906円13銭
(2) (一)の(2) の(イ)の期間について(施行法第一一条第一項第一号)
(17年×(1/51)+4年×(1/150))×117,600 = 63,936円
(3) (一)の(2) の(ハ)の期間について(施行法第一一条箒一項第三号)
6年×(1.1/180)×177,600円 =6,512円
(4) 以上の合計 75,954円13銭
即ち 75,355円
(5) 右に算定した年金額は、原告が新法の施行日(昭和三四年一月一日)の前日に受ける権利を有していた普通恩給の年額一四、八四八円に達しないので、この普通恩給の年額が原告の退職年金の額となる(施行法第二二条第三項)。
第五前記事実に基く原告の主張
一、被告連合会のなした原告に対する退職年金の給付の決定(基本年金額の算定)は、次の二点において違法である。
1.右決定においては、第一に原告が組合員であつた最後の時期に異常に低額な俸給を受けたけれども、年金額は、その俸給額によつて算定されるものであつて、以前における高額な俸給を考慮して、年金額を算定することができないとする。
しかしながら、年金額の計算に当つては、組合員に有利な方法によらねばならないことは当然のことである。(例えば、被告らの主張によれば、判事が定年に達したので退官して、簡易裁判所判事に任用されると俸給が低額になる。そして、右簡易裁判所判事が定年に達して、退官すると、その退職年金額は著しく低額になることが、法の解釈であり、法の合理的運用であるということになる。)。
けれども原告のような特殊の場合においては、俸給の最も高額であつた時期において、一且年金額を右高額によつて算定し、これを基本額とし、その上で、その後の低額な俸給期間について別個にその期間の年金額を算定して、これを右基本年金額に加算しなければならないものである。
したがつて、原告の退職年金の算定の基礎たる、恩給法の俸給年額及び旧法の俸給年額は、いずれも、司法修習生終了時の給与から算定すべきものではなく、それ以前郵政事務官退職当時の俸給四の八号俸をその基礎とすべきである。
2.第二に、被告連合会の算定は、その基礎となる各俸給年額につき給与法第六条に定める俸給表の給与額の改定(ベースアツプ)を無視している。
俸給表の改定即ちいわゆるベースアツプは、貨幣価値の下落に伴う経済事情の変更によるもので、実質賃銀である実質貨幣価値を、名目貨幣価値に引直すこと、換言すれば、実質賃銀が基準時と同等になるように名目貨幣価値を引上げることである。
従つて、ベースアツプは昇給とは本質的に異るものであつて、むしろ実質的減給を復元するに過ぎないものである。
二、1. 原告に退職年金給付事由の生じた昭和三五年五月において、四の八号俸の俸給月額、司法修習生の給与月額はそれぞれベースアツプにより前記(第三、三、23)のとおりとなつているところ、これによつて計算すれば、施行法第一一条第一項第一号、第三号の俸給年額は各三六七、二〇〇円でありへ同第四号の俸給年額は一七七、六〇〇円であるから、原告の昭和三五年五月以降の基本年金額は、一五〇、九八四円であつて、若年停止による差引支給年額はその二分の一である七五、四九二円である。
2.退職年金の給付事由発生後においても、ベースアツプがあれば改定された俸給額を基礎として当然退職年金の額は変更されなければならない。
(一) 退職年金額が給与法の改正による俸給表の改定に伴い改定されるものであることは、新法第七三条第三項が当然予定しているところである。(共済組合連盟発行。門司孝夫ほか著「国家公務員共済組合長期関係法令の解説」《以下「法令解説」という。》七二頁、一一五頁末行)
(二) 公務員のベースアツプに伴う恩給法による恩給額の改定については、恩給が天皇の官吏に対する天皇の恩恵であるという建前に立つているため、また、軍人恩給につき、尨大な支給額を要する財政上の理由のため、内閣は特別立法によつて、これが改定を行つている。
(三) しかしながら、共済組合法の退職年金は、公務員が一丸となつて、退職公務員の老後の生活を保障しようとする相互救済を目的とするものであるから、そのよつて立つ地盤ないし理念が恩給法とは全く異るものである。
(四) とは言つても、勤続年数に応ずる年金の支給という法技術的な面において同一の制度を持つのは、合理的現代法として当然のことである。
(五) 以下において、法技術的な面における同一性につき、恩給法の一部を改正する法律(昭和三七年法律第一一四号)の附則(以下「附則」という。)を援用する。
(六) 附則節一〇条は、(昭和二九年一月一日以後給与事由の生じた文官等の恩給の年額の改定)と題して、次のとおり規定(関係のない部分は省略)している。第一〇条昭和二九年一月一日以後退職した公務員若くは公務員に準ずる者で、昭和三七年九月三〇日において現に普通恩給を受けている者については、同年一〇月分以降、その年額を、次の各号に規定する俸給年額にそれぞれ対応する附則別表第一から第三までの仮定俸給年額を退職当時の俸給年額とみなし、改正後の恩給法の規定によつて算出して得た年額に改定する。
一、昭和二八年一二月一三日以前から引続き在職していた公務員又は公務員に準ずる者にあつては、同日において施行されていた給与に関する法令(以下「旧給与法令」という。)がこれらの者の退職の日まで施行され、かつ、これらの者が同日において占めていた官職を変わることなく退職していたとしたならば、これらの者の旧給与法令の規定により受けるべきであつた恩給の年額の計算の基礎となるべき俸給の年額
(七) 原告は昭和三三年四月に恩給公務員を退職した者であるから、右附則第一〇条によれば、昭和三七年九月三〇日現在において旧給与法令に従う年金額に従つて改定される筈のものであるが、原告は新法の適用を受けているため右の改定を受けない。
右の事実は、原告の退職年金額は、公務員のベースアツプに応じて、即ち給与法の改正に伴つて当然に改定されることを意味しているのである。
(八) また附則第一二条は、(職権改定)と題して次のとおり規定している。
第一二条この法律の附則の規定による恩給年額の改定は、附則第一〇条の規定によるものを除き、裁定庁が受給者の請求を待たずに行う。
右条項は、昭和二九年一月一日以降の退職者については、裁定という行政処分が必要でないということであつて、給与法の改正に伴つて当然に年金額が改定になるということである。
従つて、原告の年金額が改定になることは、これまた当然であるとして新法の予定しているところである。
3.原告の退職後、四の八号俸の俸給月額、司法修習生の給与月額は、それぞれ前掲(第三、三、24)のとおり増額されている。したがつて、
(一) 昭和三五年一〇月以降においては、施行法第一一条第一項第一号、第三号の俸給年額は、いずれも四三四、四〇〇円、同第四号の俸給年額は一九八、〇〇〇円であつて、これを基礎とすれば、基本年金額は、一八一、五八二円、若年停止による差引支給年額は九〇、七九一円である。
(二) 昭和三六年一〇月以降においては、施行法第条第一項第一号、第三号の俸給年額はいずれも四七〇、四〇〇円、同第四号の俸給年額は、二一四、八〇〇円であつて、基本年金額は一九四、三六九円、差引支給年金額は、九七、一八五円である。
三、 確認の請求について
1. 年金債権について
(一) 退職年金債権は、これを基本権たる退職年金債権と支分権たる退職年金債権に分けることができるものである。
(二) 基本権たる退職年金債権は、新法第七六条の規定するいわゆる年金即ち一か年間に支給される退職年金額であつて、新法第四一条及び施行法第五七条によつて、決定される給付額である。
(三) 支分権たる退職年金債権は、基本権たる退職年金債権に基づき、新法第七三条第四項により、毎年三月、六月、九月及び一二月の支給期月において、それぞれの前月までの分を支給されるもの、即ち、年金額が年四回に分けて、各支給期月に支給されることになるもので、右の各支給期月において、具体的に発生する債権であり、換言すれば、基本権たる年金賃権に基づき、弁済期の到来した債権である。
支分権たる年金債権は、その弁済期即ち支給期月の到来した後においては、基本権たる年金債権から独立した別個の債権となり、別個に弁済され、又別個に消滅時効にかるものである。
2.(一) 請求の趣旨の3項の金額は、支分権たる年金債権の昭和三五年五月から昭和三七年八月までの、即ち昭和三七年九月支給期月までに発生し弁済期の到来した債権のうち、支給を受けた額と支給を受けるべき債権額の差額の合計金額である。
(二) わが国の従来の判断によると、支分権たる債権という概念が十分理解されていないため、右合計金額のみが現在における債権であるから、右金額の給付の訴を提起することができるのみであるように考えられているが、詳細に本件請求債権を構成すれば、右金額は各支給期月に発生した独立の債権の併合されたものであつて、更には、各支給期月以降の各債権につき、それぞれ法定利息の請求ができるものであるから、何年何月にいくらの支分権たる債権が発生したものであるかを確認する必要がある。
(三) 従つて、本件請求において、右3項の金額金六七、〇七三円の給付を請求すれば必要にして十分であるとか、或は、右給付のみしか請求できないと解することは誤りである。
3.(一) 請求の趣旨の2項は、基本権たる退職年金債権の確認請求である。
右基本権たる債権は、一か年間に発生する債権額であつて、右金額は被告らによつて前記のとおり新法第四一条及び施行法第五七条によつて決定され、年金証書又は適宜の方法によつて通知されるものである。
(二) この基本権たる債権につき、右法条は被告らによつて決定するとなつているので、被告らの決定がなければ、その債権が発生しないようにも解せられるが、被告らの右決定は、正確には、法律につて発生した債権の確認行為に過ぎないもので、退職年金債権は法律によつて、当然に成立する債権であり、それは右決定以前に成立しているいわゆる法定給付といわれる債権である(新法第七六条、法令解説四八頁五一頁)。
(三) ベースアツプの場合における退職年金額の改定は新法第四一条第一項の定めによりその権利を有する者の請求に基づいて決定されるものではなく、同法第七三条第三項により、当然にベースアツプに応じて年金額が決定され、支給されるものである。
(四) ところが、それにも拘らず、被告連合会が、職務怠慢にも右改定を行わないので、本件訴を提起しなければならないことになつたのである。
(五) また、年金証書の年金額の訂正は、単なる事務手続の問題であり、ベースアツプによる年金額の改定は、受給者に通知することが適当なくらいの程度のもので、被告連合会は、自動的に年金額を改定し、これを支給しなければならないものである。
(六) ベースアツプによる年金額の改定につき確認を求める必要性は、また会計法の要求にもよるものである。
年金の支払に要する費用の一部は、新法第九九条第二項第二号により国が負担するものであるところ、国の支出は、会計法第一二条による年度独立の原則に従わねばならないから、過年度分の支払については、その年度が確定されることが必要である。
仮にその年度が確定されないときには、被告らは、過年度支出を理由にその支払を拒否することがあるので、右年度を確認するため、年金の発生時期を確認する利益があるものである。
4.被告国の当事者適格について
(一) 被告国は、退職年金に要する費用の負担者である(新法第九九条)から、原告は、国を被告として、その確認を求める利益がある。
(二) 仮に被告連合会のみを相手方とした場合には、被告連合会は、被告国がベースアツプによる追加費用(施行法第五五条第一項)を負担しないことを理由に、年金の支給を拒否することができる。
5.なお請求の趣旨1項は、過去の国家公務員のベースアツプに伴い退職年金額が当然改定されていることについての現在における確認の請求であり、請求の趣旨2項の確認の先決問題となるものであつて、現在において即時確定の必要がある。
よつて、請求の趣旨1、2、項のとおり確認判決を求める。
四、給付請求について
原告が昭和三七年九月までに支給を受けた年金額(第三、四、2)と同月までに支給を授けるべき額との差は、合計六七、〇七三円であるから、請求の趣旨31項のとおりの判決を求める。
五、予備的請求について
原告の前記一、二の主張が認められないときには、予備的に、次記の主張に基いて請求の趣旨5、6、項のとおりの判決を求める。
1.原告は、やむなく、司法修習生としての低額な最後の二か年の俸給期間における権利を放棄する。権利は、これを、自由に放棄することができるものであるから、本法においては右放棄について特に規定していないけどれも、当然に放棄できるものであり、原告は右二か年間について、掛金を徴収されているのであるが、その権利を放棄するのである。
2.右放棄により、原告は、昭和三五年四月七日に退職した者であるから、その俸給年額は、右の日における原告の二年前の最後の俸給である四の八号俸の三〇、六〇〇円によつて、年額三六七、二〇〇円が算出され、これによつて退職年金額が算定されなければならない。
3.右俸給年額を基礎とし、昭和五年八月から昭和三三年四月までの在職期間に基いて算出された分のみを請求し、その余は放棄するのであるが、
(一) 原告の昭和三五年五月における基本年金額は、金一四五、六五六円であつて、その計算は次のとおりである。
(1) 恩給公務員期間について(施行法第一一条第一項第一号)
367,200円×(17(年)×(1/51)+4(年)×(1/150))= 132,192円
(2) 施行法第七条第一項第五号の期間について(同法第一一条第一項第三号)
367,200円×(6(年)×(1.1/180))= 13,464円
(3) 以上合計額 145,656円
(二) 昭和三五年一〇月一日に四の八号俸の俸給月額は三六、二〇〇円にベースアツプされたから(一)と同様の計算により原告の基本年金額は同日以降金一七五、六四二円となる。
(三) 昭和三六年一〇月一日には、同号俸の俸給月額は、三九、二〇〇円にベースアツプされたから、(1) と同様の計算により、原告の基本年金額は、同日以降金一八七、九二五円となる。
4.しかしながら、原告は、若年停止により、その半額の支給を停止されるので、原告の支給を受けるべき差引支給年額は、
昭和三五年 五月からは 金七二、八二八円
昭和三五年一〇月からは 金八七、八二一円
昭和三六年一〇月からは 金九三、九六三円
である。
5.原告が昭和三七年九月までに支給を受けた年金額(第三、四、2)と同月までに支給を受けるべき額との差は、合計金五七、七七一円である。
第六、 被告国の本案前の主張
原告に対する退職年金の支給義務者は被告連合会であつて、被告国と原告との間には何ら直接の法律関係は生じないものである。原告は、施行法第五五条第一項を援用するが、この規定は、国と被告連合会との間の費用負担に関する内部関係を規定したに止まり、国と被告連合会との間の費用負担関係の如何は、退職年金受給権者の被告連合会に対する権利に影響を及ぼすものではない。したがつて、原告の被告国に対する本件確認の訴は、確認の利益を欠き失当である。
第七、立証
原告は甲第一号証を提出し、被告ら代理人はその成立を認めた。
理由
第一被告国に対する訴について
請求の趣旨1項のうち、被告国に対する確認の訴は、次に述べるいずれの点からも、不適法である。
1.原告は新法、施行法の定める退職年金の額は国家公務員のベースアツプに伴い当然改定さるとの法解釈論に立ち、その請求の趣旨1項は、2項以下において確認、給付を求める原告の退職金請求権の存否を判断する前提として、新法(施行法の解釈上退職年金額が給与法第六条所定の俸給表の給与額改定に伴い改定された旨の確認を求めるにあることは、その主張に徴し明らかである。ところで、裁判所が具体的権利関係を判定するに当り、適用すべき法令が審査の対象となりその解釈について判示することはもとよりその権限内に属する
けれども、かような先決事項たる法令の解釈問題につき独立に裁判所の判断を訴求することは、わが法制上認められない{ところである。原告の訴旨は抽象的な法令の解釈ないし効力のみについて裁判所の見解を求めるに帰し、本来民事訴訟の対象となり得ない事項をその対象としたものである。
2.退職年金請求権に対する直接の支払義務者が被告連合会であることは、原告も自認するところと認められる。原告は被告国との間の確認の利益について、新法第九九条、施行法第五五条第一項を援用するけれども、右規定は被告国と被告連合会との間の費用負担に関する内部関係を定めたにとどまり、内部的な費用負担者にすぎない被告国の態度の如何は、原告と被告連合会との間の退職金権利関係に何らの消長を及ぼすものではない。また原告は、財政法(原告が会計法と主張するのは誤解)第一二条の会計年度独立の原則を云々するけれども、被告連合会としては、判決により給付を命ぜられた以上、右原則を援用してその履行を拒み得る筋合ではない。これを要するに、被告国に対する1項の訴は、仮にそれが民事訴訟の対象となり得ると解しても、確認の利益を欠くものである。
第二、被告連合会に対する本位的訴について
1. 請求の趣旨1項のうち、被告連合会に対する確認の訴は、第一1に述べたと同じ理由により不適法である。
2. 同2項の確認の訴は、次に述べる理由により、不適法である。
(一) 原告が同3項の給付の訴のほか右確認の訴を特に必要とする理由について述べるところ(第五の三1ないし3)は、必ずしも首尾一貫した明確なものといえないが、その要点は、(1) 各支給期に発生する支分権ではなく、基本権たる退職年金債権の確認を求めるものである(同1(三)、3(一))、(2) 各支分権毎に生ずる遅延利息請求のためにも、各支分権の発生時期及び額を確定する必要がある(同2(二))、(3) 費用負担者である被告国の支出が会計年度独立の原則に律せられる関係上、支分権の発生時期を確定する必要がある(同3(六))というにあるものと解される。以下右論点につき順次判断を加える。
(二) 退職年金債権を基本権と支分権とに理論上区分できることは原告主張のとおりであるが、基本権たる退職年金債権の内容はそれから生ずる支分権の額、発生時期等の具体的態様によつて識別されるものであつて、実際の訴訟の場において基本権たる退職年金債権の確認と支分権たるそれの確認とは自ら合致するものであるから、確認の対象として支分権の表示を徴憑として具体化された権利を基本権とみるか各支分権の総体とみるかは単なる観念的な問題にとどまり、右観念的差別は訴訟的=実践機能な概念である訴の利益の有無を差別する契機とはならない。
しかして、原告の本件訴旨に徴すると、請求の趣旨2項と3項とはあたかも先決事項たる権利関係の確認とその帰結たる給付とを同時にあわせ訴求する関係に立つものであつて、一般に右のような場合、確認の訴は権利保護の直接性に欠けるものとして、訴の利益を有しないものというべきである。
(三) 各支分権の発生時期及び額を明確にすることが、支分権毎の遅延利息請求権の具体的範囲を確定するについてその論理的前提をなすものであることは、原告の説くとおりであるが、右範囲算定の基礎となる支分権の発生時期及び額の点を抽出して独立に確認を訴求することは前記(二)に述べた権利保護の直接性の観点から当を得ないものというべく、特に原告が請求趣旨2項に掲げる金員は原告が若年停止により或いは既に受領したことにより請求権の一部が発生せず又は消滅したことを自認する部分を含めた退職基本年金の全額である点に徴しても、確認の利益を欠くものであることは明らかである。
(四) 被告国の費用負担の関係において会計年度独立の原則を援用する原告の主張が理由のないものであることは、上記第一2において判示したとおりである。
2. 同3項の給付の訴は、次に述べるところから、その理由が一ないものと認める。
(一) 原告は、施行法に定める更新組合員であつたところ、昭和三五年四月七日新法に定める職員(組合員)の資格を失い、退職年金の受給権者とたつたこと、更新組合員に対する退職年金の額は、施行法第一一条あるいは第一三条等によつて基本年金額が定まるけれども、原告については、なお、当分の間施行法第一五条に定める支給停止事由に該当し、原告の受けるべき年金額が基本年金願からその一〇〇分の五〇あるいは一〇〇分の三〇を差引いたものであつて、すでに、当該年金の昭和三七年八月までの分については、被告連合会の計算による金員を原告において受領していることは、いずれも、当事事者間に争いがない。
(二) 被告連合会は、右争いのない事実を基礎とすれば、原告の退職年金(基本年金)額は一二四、八四八円であつて、その計算の根拠は事実第四記載のとおりであると主張する。新法、施行法等の文理の形式に即すれば、右主張が一応肯定されることは、原告も敢えてこれを争わないものと認められる。そこで、右文理から離れても、新法、施行法の解釈上、原告の主張するところを容認すべき理由があるかどうかを以下検討する。
(三) (第五の一1の主張について)年金額の計算に当つて、原告が説くように組合員に有利な方法によるのが事理の当然とまではいえないにしても、年金額の算定の基準となる俸給として、最も高額であつた時期のそれによるとする制度もそれ自体一つの合理的根拠を有することは、当裁判所もこれを肯定しないものではない。しかし、新法、施行法等は、原告の事例のように退職当時の俸給願が以前に比して低い場合について全く配慮していないわけではなく、例えば、施行法第二一一条第三項も主として右のような場合を予想して原告が述べるような不合理の点を調整する途を構じた規定と考えられる。したがつて、年金算定の基礎となる俸給額の基準時期について原告の見解を採用することは、立法の課題として十分考慮に値するものということはできるけれども、法に明記された字義を離れて、これを法解釈上の正当な結論とすることはできない。
(四) (第五〇一、2及び二、2の主張について)退職年金の制度が退職公務員に対する恩恵でなく、相互救済をその本旨とし、その給付が退職公務員の老後の生活の安定に寄与すべきものであることは、国家公務員法第一〇七条や新法第一条の規定をまつものでもなく当然であろう。したがつて、公務員の退職後、貨幣価値の下落等によつて、年金の給付が実質上その意義を失うことは、国としてこれを避けるよう努めるOが至当である。けれども、原告主張の俸給表の改定は、単に実質賃金の引直しに過ぎないものでないことは、国家公務員法第六四条第二項や原告主張の各改定に際してなされた人事院の勧告内容からも明らかである。
また、退職年金が相互救済を本旨とする建前からして、退職金額の増減を決定するについてはその原資への配慮も、必要であり、俸給表の改定に伴い、被告連合会への掛金総額が必ずしもベースアツプに比例して増減するものでないことは、組合現在員数の消長や退職公務員と現職公務員の数比を考えれば自ら明らかである。以上に述べたところから、国は、退職年金等の実質的価値を確保して退職公務員の生活安定を図るべく、国家財政の実情等を勘案し可能適切な措置をとるべきものであり、現に、原告指摘の数次の立法により給付額につき改定を行たつているのであつて、これら立法による改定が十分のものか否かは、批判も可能であるが、立法によらないで給付額が当然改定されるものとする原告の見解は、にわかに採用できない。
第三被告連合会に対する予備的訴について
予備的訴については、請求趣旨5項の確認の訴は上記第二3で判示したと同じ理由により不適法、同6項の給付の訴は同3で判示したと同じ理由により(原告のいわゆる権利放棄の主張《第五の五1》は結局退職年金算出の俸給額の基準時につき独自の解釈を主張するものにすぎたい。)失当といわなければならない。
第四以上のとおり、原告の確認の訴は不適法であるからこれを却下すべく、給付の訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 橘喬 吉田良正 高山農)